FOR THE FUTURE

未来への胎動03

Investment

投資ビジネス

国際分散投資を極め、新たなインパクトの創出へ

JAバンク・JFマリンバンクの資金を最終的に運用する存在であり、
60兆円にものぼる巨額を動かす機関投資家として
国際金融市場でも大きなプレゼンスを誇っている農林中央金庫の『投資ビジネス』。
この業務に携わる職員は今どのようなテーマに挑んでいるのだろうか。
そして新たに動き出したビジネスとは。
不変の使命とさらなる飛躍への挑戦を
グローバル・インベストメンツ本部の曲本竜宏が解説します。

Tatsuhiro Kyokumoto

曲本 竜宏
グローバル・インベストメンツ本部 市場運用部 2006年入庫/法学部卒
Profile
形のない「お金」を扱い、自身の実力でバリュー提供ができる金融業界のなかでも、「農林水産業の発展に寄与する」という明確な存在意義を持つ点に惹かれて入庫を決めた。法人営業を経て投資ビジネスに携わり、幅広い投資国・商品を経験。2022年からは投資部門の総括業務を担うほか、サステナブル・ファイナンスの企画・推進担当として旗振り役を務めている。

Talk01

投資ビジネスの根源的な役割と
その変遷

農林中央金庫が行う投資ビジネスの役割を教えてください。

農林中央金庫における投資ビジネスの基本的な役割は、JAバンク・JFマリンバンクという系統組織の会員からお預かりしている資金を運用し、収益を稼いで、還元することにあります。我々が配当という形で還元するお金は、会員の事業運営、ひいては日本の第一次産業を支える重要な柱の一つとなっています。したがって会員の安定経営に資するためにも、中長期に安定した額を還元することが肝要となります。

投資対象に変遷はあるのでしょうか?

安定した収益を会員に還元することで日本の農林水産業を間接的に支えています。

かつては国内を中心に運用していましたが、日本が低金利時代に入った20年ほど前からは、グローバルな金融市場を舞台として、いち早く「国際分散投資」に取り組みはじめ、国内外の国債・株式といった伝統的な運用資産に加え、クレジット資産、オルタナティブ資産、不動産など、リスク・リターン特性の異なる幅広い資産に分散投資を行ってきました。また、2008年にリーマンショックが発生した後は、リスク分析・管理の手法を一段と高度化させて、様々な環境下でも安定した収益を上げられるポートフォリオを構築し、会員に還元し続けることにより、日本の農林水産業を間接的に支えています。

Talk02

培われた投資ノウハウを活かして
次なる展開へ

そのような流れを経て、現在はどんなテーマに取り組んでいるのですか?

現在、注力しているテーマは大きく2つ、「資産運用ビジネス」の強化・拡充と、環境・社会課題の解決に資する「サステナブル・ファイナンス」の推進です。
このうち前者の資産運用ビジネスは、農林中央金庫のポートフォリオとは別に、外部投資家の皆さまから資金を預かり運用するものとなります。これまでに培ってきた投資ノウハウやリレーションを活かし、外部投資家の皆さまにさまざまな投資機会を提供することで、我々自身の収益拡充も目指しています。
この目的の実現に向けて、グローバル・インベストメンツ(GI)本部の開発投資部に専門チームを立ち上げ、グループ会社と連携しながら拡販戦略の立案や訴求力ある商品の組成に取り組んでいます。グループ会社についても、長年の実績を持つ資産運用会社「農林中金全共連アセットマネジメント(NZAM)」、株式投資会社「農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)」、「農中信託銀行」に加え、2021年にはプライベート・エクイティ(未公開株式)投資を行う「農林中金キャピタル(NCCAP)」と、不動産投資などを担う「農中JAML投資顧問(NJIA)」を新設し、事業体制のさらなる強化を図りました。

一方で、サステナブル・ファイナンスに力を入れる理由は?

当然のことながら、サステナブル(持続可能)な社会の構築は今日の世界共通の課題ですが、とりわけ農林水産業は気候変動の影響を大きく被る産業ですので、我々としては「農林水産業の発展に寄与する」という根本的な使命を果たすためにも、サステナブル・ファイナンスに力を注いでいかなければならないと考えています。
また、世界的な機関投資家として知られる農林中央金庫が先頭を切ってさまざまなサステナブル・ファイナンスに取り組み、それを世に示していくことは、社会的な機運高揚の一助にもなるのではないか。いや、むしろそうすることが我々の責務であると認識し、2030年度までにサステナブル・ファイナンスの新規実行額10兆円を目指すという中長期目標を立て、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の要素を考慮したESG投資を強化しているのです。

サステナブル・ファイナンスへの取り組みは、世界的な機関投資家である我々の責務だと思っています。

具体的にはどのようなESG投資を行っているのですか?

食品ロス・廃棄問題の解決をテーマとする債券やジェンダー平等の実現を重要テーマにした債券などの、世界銀行が発行するサステナブル・ディベロップメント・ボンドに投資したほか、最近では環境的・社会的にポジティブなインパクトを生み出す「インパクト投資」も開始しました。また、プロジェクトファイナンスの分野でも、海外の洋上風力発電をはじめとする再生可能エネルギー案件や、病院・道路建設案件など公共性の高いプロジェクトへの投資を増やしています。不動産関係でも、グリーンビルディング認証を取得したビルに投資をするなど、ESGを第一義とした投資行動をとっています。

Talk03

業界に先鞭をつける取り組み、
若手の奮起

日本は他の先進諸国に比べてESGに対する意識が希薄だとも聞きますが。

欧州では夏の気温が45度に達するなど、気候変動の面でも日本以上に深刻な事態に見舞われていますから、そのような傾向があるのかもしれません。農林中央金庫の職員も少し前は「そもそもESGって何?」「投資に際してESGを考える必要があるんだろうか?」といった認識でした。しかし、約2年の取り組み推進を経た今は、役職員の意識が劇的に変化したと感じています。現在は我々企画・推進担当者が旗を振らずとも、フロントの職員一人ひとりがサステナブル・ファイナンスに対する意識を持ち、より良いESG投資を自発的に探索・実行しようとする動きが活発化しています。2022年に開始した「インパクト・プライベート・エクイティ・ファンド」への投資も、その最たる例の一つです。金融の世界でもかなり新しく、先例の少ないESG投資商品でしたが、若手のフロント担当が「やるべき」と意見を発し、ボトムアップで投資の実現に至りました。

先例の少ないESG投資でしたが、若手からのボトムアップで実現に至りました。

当該ファンドの環境的・社会的価値は?

このファンドは、世界的に有名なプライベート・エクイティ投資会社Apollo Global Management, Inc.の関係会社が組成したものであり、気候変動対策はもとより、教育、健康・安全などの幅広い領域を対象に投資が行われています。例えば教育領域では、学校を中途退学した人の再就学から卒業、就職までを支援するプログラムの運営会社などへ出資が実行されています。プログラムの利用者が増え、卒業生が増えれば増えるほど会社の収益も伸び、社会的インパクトと経済性が両立できるビジネスモデルの会社です。
当該ファンドからは毎年、このような各種の投資を通じて生み出されたインパクトやその測定ロジックなどの情報が詳細に開示されるため、我々としてもファンドの持つインパクト測定のノウハウなどを吸収し、いずれは自分たち自身の手でインパクト・ファンドを組成するところまで事業を発展させていきたいと考えています。

Talk04

世の中のためになる投資を、
“オール金庫”の体制で

今後の展望を聞かせてください。

サステナブル・ファイナンスは世界的にも歴史が浅く、草創期にあります。投資対象となる企業やファンドを選ぶにあたっても、環境や社会に与えるインパクトをどのように評価・測定すればよいのか、まだ「これが正解」と言える答えや統一見解のない段階です。ゆえに自分たちの力で考え、判断していかなければならないところに難しさがあると言えますが、だからこそ面白い。皆で議論を重ね、「どのようなテーマで取り組むことが農林中央金庫として最適なのか」「何が世の中のためになるのか」を追求しつつ、金融業界をリードする最先端のファイナンスに挑んでいきたいと思います。

JAバンク・JFマリンバンクの資産運用をする国際分散投資の方針に変化はありますか?

国際分散投資が農林中央金庫の投資コンセプトの肝であることは、これからも変わりません。ただし、世界の金融情勢や投資プロダクト、各種の規制は目まぐるしく変化していますので、ポートフォリオ構成の不断の見直し、投資商品の高度化、収益の源泉に迫るアプローチなどを行い、国際分散投資の質を高めていきたいと考えています。

コロナショックやロシア・ウクライナ情勢も投資判断に影響を及ぼしているのではないですか?

コロナショックに伴い、世界の金融市場は超低金利・金融緩和時代に入りましたが、その後のウクライナ情勢もあり40年ぶりの高インフレ時代に突入、これを受けて超緩和的な金融政策の巻き直しが図られるなど、かつて経験したことがないほど値動きの激しいボラタイルな局面が続いています。我々としても日々難しい舵取りを迫られていますが、そうしたなかで最近強く感じているのは、組織としての一体感です。我々GI本部と他本部との連携は以前にも増して緊密になり、“オール金庫”の体制で皆の知見を集約し、不透明な環境に立ち向かっていこうという士気の高まりを感じますね。

投資ビジネスに求める人材像を教えてください。

かつてないほどボラタイルな環境のなか、組織としての一体感や士気の高まりを感じています。

農林中央金庫は、投資銀行のように一人のスーパースターがビジネスを引っ張るような組織ではなく、チームで仕事をする組織ですので、我々の使命に共感し、チームワークを重視できる方があうと思います。また、今日のように変化が速く激しい時代に生き残っていくには、我々自身が絶えず進化していくことが不可欠なため、新しいことに果敢にチャレンジできる人材が理想。そのようなマインドを持った皆さんとチーム一丸となって働ければと考えています。