農業分野ではJA(農協)と信農連と農林中央金庫が、
水産分野ではJF(漁協)と信漁連と農林中央金庫が連携することで、
全国津々浦々に高品質な金融サービスを提供している『リテールビジネス』。
金融環境が目まぐるしく移り変わるなか、
JAバンク・JFマリンバンクは何を目指して進むのか。
リテール事業本部の箱崎未理にビジネスの今と未来を聞きました。
Talk01
リテールビジネスにおける農林中央金庫の役割とは、どのようなものなのでしょうか?
全国47都道府県にあるJA・JFは、それぞれの地域特性や実情に合わせて事業を展開し、組合員・利用者に金融サービスを提供しています。つまり、全国のJA・JFは各々が独立した金融機関なのですが、JAバンク・JFマリンバンク全体としての機能やブランド力をより高め、組合員・利用者の満足度を向上させるには、全国共通で導入すべきものもあります。そのため系統組織の全国機関である農林中央金庫が、全国展開する商品やサービス、施策の企画立案をすると同時に、普及推進の旗振り役を担っています。加えて、農林中央金庫の職員がJA・JFの現場に入り込み、施策展開の実践支援を行うことや、経営コンサルティングとして経営管理や内部管理態勢などの高度化に向けた支援・指導をすることも重要な任務となっています。
そのようにJA・JFと連携しながら展開されてきたリテールビジネスは、今どういった環境下に置かれているのでしょうか?
ご存知の通り現在は、ICT技術の進化やコロナ禍の影響で社会変容のスピードが加速している状況にあります。フィンテック企業の台頭は以前から叫ばれていましたが、キャッシュレス化の進展や仮想通貨の流通もあり、「おカネ」というものの存在自体が根本から変わり得る状況にあると認識しています。また、金融機関の動向に焦点を当てると、銀行法の改正などを背景に、地方銀行が地域商社を設立し、実体経済の領域でも「モノ」を動かす流れが起きており、ビジネスの主戦場が「金融」にとどまらない領域に拡大しています。
JAバンク・JFマリンバンクとしても当然、このような社会・金融の環境変化にスピーディにフィットしていくことが必要なため、ネットバンクやアプリといった非対面ツールの導入、キャッシュレス決済への対応を図るなどしてインフラ面の整備を進めているほか、「非金融」面での施策展開にも力を入れ始めています。
Talk02
非金融面での新たな施策を教えてください。
施策の一つに、私が今JAバンク統括部で展開に携わっている「ふるさと共創事業」があります。全国のJAは、金融(信用事業)だけでなく、農畜産物の加工事業・販売事業、組合員の生活に関わる事業などを幅広く行う総合事業体であり、エリアごとの特性を踏まえながら独自性ある地域活性化策に取り組んでいます。しかしなかには、資金や人員、ノウハウといったリソースも限られるなかで実現に至っていない活動や、計画を改善することでより高い効果が見込める活動も存在します。2022年度から段階的に取り組みを開始したふるさと共創事業は、このような活動に対して農林中央金庫が支援を行い実践につなげることにより、JAが地域に貢献し、地域とともに成長することを目指しています。
全国各地でどのようなふるさと共創事業が始められているのですか?
例えば、徳島県のJAにおける移動販売車導入はその代表的事例と言えるでしょう。地域によっては、スーパーマーケットやコンビニエンスストアが移動販売車を走らせているケースもあるのですが、JAの事業の特長は、人が集まる病院やケアセンターなどを回って販売するだけでなく、個人宅も一軒一軒巡回し、限界集落までモノを届けている点です。「協同組合として地域の誰一人取り残さない」という使命感のもとに移動販売車を運行しています。また、中山間・過疎地域を抱える愛知県のJAでは、高齢者を対象とした宅食サービスが開始され、見守りを兼ねた声掛け手渡し配達が行われています。これらの事例は、販売・加工する食材や商品を自前で確保できるというJAならではの強みを活かした貢献の形でもあると思います。
地域に根差し、住民に深く寄り添った活動であるところにもJAらしさを感じますね。
全国のJA・JFは、都市部であったり農村部であったりという多種多様な地域に根差し、その土地のニーズにきめ細かく対応してきました。都市部のJAでは、都市型農業などを営む組合員のほか、非農業者である利用者も多く持ちながら、資産形成を含めたさまざまな金融サービスを提供していますし、農村部の過疎地域ではJAの施設が近隣地区で唯一、人の集まる交流拠点になっているケースも珍しくありません。中山間や過疎地域であればあるほど、「JA・JFはあって当たり前」「金融機関はJA・JFぐらいしかない」というような、地域社会にとって不可欠な存在となっています。
Talk03
JA・JFは地域の社会インフラでもあるのですね。
その通りです。しかしながら近年は、ICT化の進展などに伴って金融機関が物理的に店舗を構えることの必要性が薄れつつあり、業界全体として店舗の機能を見直さなければならない局面に来ています。JAバンク・JFマリンバンクとしても、店舗における組合員・利用者との接点再構築を推進し、利便性や満足度のさらなる向上に取り組んでいます。
私自身、鳥取県域を担当していた際にJAから相談を受け、店舗戦略を一緒に検討したことがありました。鳥取におけるJAは地域住民の寄り合い場所でもあったため、店舗数は維持しつつ機能を見直し、渉外担当者や融資担当者を集約配置する基幹店舗と、貯金の受払や諸届の受付を中心に行う店舗、さらには信用事業では取次のみを行う店舗に分けてメリハリをつけた形とすることで、組合員・利用者との接点強化と効率的な事業運営の双方を実現できる提案を行いました。これらの提案にあたっては、全国の他の金融機関の店舗戦略なども参考にしつつ、JAの現場で20~30人の役職員に意見を伺い、膝詰めで議論を重ねました。我々がコンサルティングを行ううえでは、このように世の中の潮流を読むマクロの視点と、各現場の実情を紐解きながらミクロな視点で検討を行うという、「両利きの視点」が求められると感じています。
JA・JFの現場に入るコンサルティング業務には、一筋縄ではいかない面もあるのではないですか?
施策の実行者はあくまでも全国の各JA・JFですので、人にやってもらうことの難しさはありますが、そこが同時に面白い部分でもあると思っています。JAの役職員に施策の必要性を丁寧に説明し、それがご理解いただけて、現場での取り組みがスタートし、組合員・利用者が喜んでくれている様子を目にすると、「施策を展開して良かった」と心から感じることができますね。
Talk04
今後に向けたリテールビジネスの戦略を聞かせてください。
2022年度から3か年のJAバンク中期戦略がスタートしています。この中期戦略では、JAバンクが「農業」を支え、人々の「くらし」を支え、そして「地域」そのものを元気にするために、JAの機能を最大限発揮しながら地域の中核的役割を担っていく方針があらためて示されました。今後はこの方針の下、農業の成長産業化に向けた適切な資金提供や、組合員・利用者に対する資産形成サポート、総合事業体としての特性を活かした創意工夫ある取り組みを強化・推進することとなっています。JFマリンバンクの戦略も基本的な方向性は同じであり、組合員との接点強化や、漁業の成長産業化に向けた事業が全国各地で始まっています。
これに伴走する我々農林中央金庫も、新規の施策に条件や制約を設けることなく、「組合員・利用者と地域社会のために何ができるか」をゼロベースで考えながら、JAバンク・JFマリンバンクがこれからも選ばれ続ける存在であるように、付加価値の拡大を目指していく考えです。他方、各地域のJAは、組合員の生産品目なども含めて多岐にわたる情報を持っていますので、ビッグデータとして活用することができれば、JA固有の強みを引き出す施策に結びつけていくことができると考えています。
どのような人材をリテールビジネスに迎えたいですか?
これは私見ですが、他業態を含めてAI活用などが進み、人から機械へと置き換わる仕事が増えているなかで、この先も残り続ける「人でなければできない仕事」とは、「人同士が交じり合うことで付加価値を生む仕事」だと思います。例えば、JA内の話し合いの場に、別の視点を持った我々が加わってディスカッションパートナーを務めることにより、先方の潜在意識のなかにあった課題やニーズが引き出され、効率的な事業体制や価値あるサービスが出来上がる。実際、業務をしていくなかで各地域独自の取り組みから気づきを得ることも多いですし、現場を訪れるといつも新たな発見がありますので、「地域で必要とされる組織であり続けたい」と直に感じることができます。リテールビジネスは、そのような醍醐味がさまざまなところに散りばめられている仕事ですので、人と向き合いながら働くことに喜びに感じられる皆さんと一緒に仕事ができれば、と思います。