FOR THE FUTURE

未来への胎動01

Food & Agriculture

食農ビジネス

日本の農林水産業の成長産業化を推進する

『食農ビジネス』。それは農林水産業の成長産業化を推し進めるという目的のもと、
生産者から資材・加工・物流・販売事業者、
そして消費者までを結ぶ食農バリューチェーンの幅広い顧客に対し、
金融・非金融の多様なサービス&ソリューションを提供していく
農林中央金庫ならではのリレーションシップマネジメントのあり方。
では、なぜ成長産業化が必要なのか。
わが国の農林水産業が抱える課題とその解決に向けた取り組みの内容を
食農法人営業本部の三上正博が語ります。

Masahiro Mikami

三上 正博
食農法人営業本部 営業企画部 2002年入庫/理工学部卒
Profile
入庫後はリスク評価、支店での法人営業、外部出向、対外広報、主務省との折衝窓口など、多岐にわたるフィールドの業務を経験。2020年より食農法人営業本部の運営を総括しつつ各種施策推進の指揮を執る。新人時代に高知県の馬路村へJA現地研修に行き、ゆずを特産品化した村おこしの成功事例に触れたことが、今に通じる仕事の素地の一部となっている。

Talk01

農林水産業が抱える
構造的問題と解決への手立て

わが国の農林水産業は今どのような課題を抱えているのでしょうか?そして皆さんはいかなる道筋で課題解決を図ろうとしているのでしょうか?

課題についてお話をする前に、我々農林中央金庫は「農林中央金庫法」に基づいて設立された唯一の金融機関であり、「農林水産業の発展に寄与すること」が普遍的な存在意義となります。どのような形で農林水産業の発展に寄与するかは時代によって異なりますが、わが国の農林水産業はかねてより、従事者の高齢化や担い手不足、耕作放棄地の増加、漁獲量の減少といった構造的な問題を抱えていました。そうした生産基盤が弱体化しているところに襲ってきたのが気候変動でした。毎年のように大雨や台風の被害に遭っており、生産者の方は非常にご苦労をされています。そこへさらにコロナ禍が発生し、外食産業などの落ち込みから農水産物の需要が減って、単価も下がっています。2022年には、ロシア・ウクライナ情勢の影響で肥料・飼料・燃料の“3料”が高騰し、コストの上昇も加わって生産者は大変厳しい環境に置かれています。こうしたなかで我々が果たすべき役割は、農林水産業が産業として成り立つよう、成長産業化を推進していくことだと考えています。
成長産業化に向けた課題は種々ありますが、先に述べたような事情から、生産者の所得が十分でないケースも多く、魅力ある就職の選択肢になり得ていないという点は特に大きな課題と言えます。そのため我々は、この課題を第一に解決していく必要があると考え、中長期目標として「農林水産業者所得の増加」をテーマのひとつに掲げています。

生産者所得の向上を実現するための方法とは?

課題解決には、食農バリューチェーン全体を見渡した取り組みが必要です。

農林水産業の成長産業化や所得水準の向上は、生産者を支援するだけで実現できるものではありません。生産に用いられる機械・資材の製造から、農林水産物の加工・流通・外食・小売・輸出・消費まで、食農バリューチェーン全体を見渡してトライしていくことが必要です。そこで我々は、バリューチェーンの川上から川下まで広く取引を有する強みを活かし、全国の農林水産業者と1,700社にのぼる顧客企業の「架け橋」になることで、生産者と企業との案件コーディネートを行い、新たなビジネス創出や販路拡大などの付加価値を提供する取り組みを、食農ビジネスの始動以来7年余りにわたって行ってきました。

Talk02

試行錯誤の時を経て…、
食農ビジネス拡大の軌跡

ここであらためて、食農ビジネスの今日までの歩みを教えてください。

本ビジネスは、2016年に「農林水産業の成長産業化に向けて付加価値を創出・提供する取り組み」を『食農ビジネス』と定義し、「食農法人営業本部」を立ち上げたことに始まります。新たな定義のビジネスでしたので、立ち上げ当初は担当の職員たちも「理念は分かったけれど、具体的に何をやればよいのか?」「どうすれば付加価値を創出できるのだろうか?」と試行錯誤する期間が長かったように思います。
これに対して本部として食農ビジネスが目指すものを地道に発信していくなかで少しずつ個別案件が積み上がり、やりたいことのイメージを具体的な事例として共有できるようになりました。そして現在は、単に生産者と企業をつなぐだけでなく、所得向上や地方創生・地域活性化、取引先企業が抱える事業課題の解決などにも結びつく質の高い事例も増加しています。

さまざまな好事例に触れ、入庫時の志が呼び起こされているのかもしれません。

食農ビジネスが浸透・拡大してきたことで、社内の雰囲気に何か変化は起きていますか?

「食農法人営業本部で働きたい」と話す職員が多くなっていると感じます。さまざまな好事例を見聞するなかで、「自分も生産者の役に立ちたい」「日本の食や地域に貢献したい」といった、入庫時の志が呼び起こされるような感覚があるのかもしれないですね。

Talk03

意義ある事例を
生産者と企業と地球のために

好事例をいくつか紹介してもらえますか?

例えば、持続可能な食料システムの構築に向けて、食品廃棄物の削減が課題の一つにあげられていますが、「レストランから排出されるコーヒー豆の残渣を再利用できないか」という問題意識から、排出されたコーヒー豆かすを廃棄せずに工場で飼料化し、この飼料を牧場で牛に給餌、そこで生産された生乳をホワイトソースとして加工、レストランの新メニューとしてそれを使用したドリアを開発することで、リサイクルループ(循環型モデル)を実現するという取り組みのコーディネートを農林中央金庫としてお手伝いさせていただきました。
また、大手小売チェーンの案件として、東南アジアの店舗で焼き芋が人気となり、新たな調達先を探していたところ、農林中央金庫が生産者をご紹介して販路拡大に結びつけたというような輸出関係の事例も数多くありますね。
このような案件のコーディネートを契機に、運転資金や設備投資資金といった金融機能のご提供につながっていくこともあります。

海外輸出に関しては、これまでどんなサポートを行ってきたのですか?

農林中央金庫では、食農ビジネスの取り組みを本格化する以前から、農林水産業者やJA・JFなどの海外輸出を後押しするために、輸出実務ノウハウを提供する冊子の配布やセミナーの開催をはじめ、日系百貨店での実売機会の提供、海外見本市への出展サポート、現地バイヤーとの折衝アレンジなど多面的なお手伝いをしてきましたが、近年では支援のレベルをもう一段高めています。

例えば、農林中央金庫が機関投資家として取り組んだファイナンス案件を通じて構築した海外財閥系企業とのリレーションを活用し、財閥傘下の外食チェーンと系統組織や生産者をつなぐことで、まとまったロットの国産和牛の輸出を支援する、あるいは、アジア各国で人気の高い小玉のリンゴの需要に対応するために、国内の生産者と一緒に新しい産地を作るなど、農林中央金庫が行政手続きの一部をご支援するような取り組みも行っています。

SDGsは当本部のホットイシュー。本当に息の長い取り組みになると思います。

一方、先ほどお話に出たコーヒー豆残渣のリサイクルループは、サステナブルの観点からも意義のある事例ですね。

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)達成に向けた取り組みは我々金融機関にとっても不可欠なものであり、その重要性や社会的責任は年々増していると感じています。電力・ガス会社をはじめとする多排出業種のお取引先と、カーボンニュートラル・脱炭素への取り組みをいかにして進めていくか、足元の大きなテーマです。また、農林中央金庫としては今後、農林水産業が持続可能な産業であり続けるために、農林水産業者の皆さまとGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)の排出量削減や吸収などにどのように取り組んでいくのか真剣に考えていかなければなりません。SDGsはまさに当本部のホットイシューであり、これから先も本当に息の長い取り組みになると思います。

Talk04

リアリティの伴う
価値提供を目指して

食農ビジネスは一般的な銀行員の枠を超えた仕事が多いように感じますが、このビジネスに携わるうえで備えておくべき素養はありますか?

『食農ビジネス』というと、これまでお話してきたような案件コーディネートや販路拡大などの非金融業務に目が行きがちですが、融資や出資を通じてしっかりと収益を得ることは金融機関が取り組むビジネスの基盤であると考えています。したがって、備えていただきたい素養も基本的には他の金融機関と変わりませんし、財務・会計などの必要知識は入庫後の研修やOJTなどを通じて十分に身につけられます。
ただ、我々の場合は金融・経済情勢を理解する力に加えて、農林水産業の動向や環境・人権・ダイバーシティなどの社会情勢にアンテナを高く張っておくことが欠かせません。また、付加価値の高い仕事をするためには知識だけではなく、生産者や取引先企業の皆さまと強固な信頼関係を構築することも、課題の本質に迫るためには欠かせない要素だと思っています。

自ら考え工夫することで、やりがいも得られそうですね。

その通りです。食農ビジネスは、担当者自身の創意工夫によって、「農林水産業に寄与する」という農林中央金庫の存在意義そのものを体現できる、やりがいのある仕事です。例年の社内ビジネス表彰のエントリー案件を見ても、個々の担当者の工夫や努力が着実に実を結んでいる様子が分かります。
さらに当本部では、企業や農業法人などへの融資・出資、担い手コンサルティング、食農バリューチェーンに関するソリューション提供、サステナブルへの取り組みなど、多種多様なアプローチから活躍することができます。新入職員でも20年目の職員でも、一生懸命に仕事に打ち込めば、「自分はこの地域の、この分野で、こういう貢献ができた」という実感を等しく味わえるのが、食農ビジネスの醍醐味だと思いますね。

最後に今後のビジネス戦略を教えてください。

正確な状況把握と分析をもとに食農ビジネスの進化を目指していきます。

金融機関として持続可能な収益規模の確保を前提に、農林水産業の成長産業化に全力投球していくという方針を維持しつつ、我々が次に目指しているのは、農林水産業への貢献をよりリアリティのあるものにすること。その実践として2022年度から、生産者に提供したサービス・ソリューションが、「どの程度の効果を生んだのか」「所得向上にどれだけ貢献できたか」を定量的に計測する施策を開始しました。我々はこの施策を通じて正確な状況把握・分析を行い、さらにインパクトを与えられる取り組みに挑んでいきたいと考えています。