「何かが足りない」気がしてならなかった
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Q.前職では、どのような仕事をしていたのですか?
- 信託銀行で長く営業の仕事をしていました。静岡の支店で2年半、本店に移って大手総合電機企業などに対するソリューション営業を3年半、続いて大手非鉄金属企業などに対するソリューション営業を4年弱です。そして10年目を迎えるにあたり、信託銀行の営業としての強みを何かひとつ身に付けた方がいいだろうということで、上司とも今後のキャリアについて話をするなかで、プロダクト部署を希望し事業法人への不動産ノンリコースローンの推進業務を担う部署に異動しました。転職するまでの1年ほど、それまでの自分と同じ営業担当者とペアを組んでセールスしていました。
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Q.転職を考えるようになった理由は何ですか?
- 不動産ファイナンスの部署というのは、いわゆる営業ではなくて、営業をサポートするプロダクト部署となるわけですが、前線から少し距離を置く機会を得たことにより、自分の将来について考える良い機会となりました。そこで思ったのは、花形は「営業」だし、それ以外の動機付けとなるものは管理職、つまりは「出世」だということ。別にそれでいいと思いましたし、そのことに特段の不満を感じたわけでもありませんでした。ただ、「何かが足りない」気がしてならなかったんです。営業のときは顧客企業からの求めに応じ、コスト高で外貨調達が難しかった時期に、しのぎを削って大規模調達のアレンジしたこともありました。また、顧客企業が本社建替を行う大型プロジェクトの話を聞きつけ、建築コンサルを受託し大きな収益を上げたこともありました。こうした大規模なディール、ダイナミックな提案は、たしかにやりがいもありましたし、自信もつきました。ただ、このようなビジネスというのは追求すればするほど、必然的に取引相手も限られてくるんですよね。それを考えたときに、「このままの延長線上で仕事を続けていいのか」「もっと大事なことがあるんじゃないか」って思ったんです。
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Q.転職先として、農林中央金庫を選ばれた理由は何ですか?
- 2人目の子どもが生まれ、子どもたちの食事の世話をしながらぼんやりと思ったんです。「こうして当たり前のように食事ができているけど、これも生産者のおかげなんだよなあ」「でも、日本の農業もいろいろ課題があるようだし、それを支える金融機関も大変だよなあ」「JAバンク、農林中央金庫か……」。ハッとしましたね。「同じ金融機関でもこんな大事な仕事をしている会社があるじゃないか」と。前職含め、市中の金融機関の多くが第一次産業に進出しないのは、利益が上げられる商売と思われていないから。言葉は悪いですけど、儲けようと思ったら相手は選ばなくてはいけないし、プロダクトアウト寄りのビッグビジネスに仕立てられた方が実入りのいい仕事になります。でも、私はそうした仕事に魅力を見いだせなかった。ビジネス規模の大小にも正直、興味はなかった。それだけに農林中央金庫について調べれば調べるほど、自分にとってはブルーオーシャンであり、私がもっとも多くを学び、今も尊敬するかつての上司の言葉と重なったんです。
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Q.それは、どんな言葉だったのですか?
- 営利を目的とする企業においては「目先の利益を確保せよ」というのは至上命題であって、企業が生き残るうえでも大事なことですよね。前職もそうでした。ただ、その上司は事あるごとに言っていました。「プロダクトアウトではビジネスは広がらない。目先の利益を追っていてはダメなんだ。大事なことはお客様の課題が何なのかをきちんと見つけてあげること。悩みを聞きだし、サポートし、背中を押してあげる。結果、自分たちの利益につながらなくてもいいではないか。それも金融機関の大事な役割であり、お客様に必要とされ、喜んでもらえたら、それこそ銀行員の本懐というものだろう」と。その上司が本店ではなく支店にいたことも今思えば示唆に富みますが、私はこの上司の言葉を忘れたことはありませんし、それを実行している農林中央金庫に強く惹かれました。ですから私の転職活動、その選択肢は、農林中央金庫の一択のみでした。