FOOD&AGRI BUSINESS
佐藤 憲
KEN SATO
営業第五部
2015年入庫/法学部卒
PROFILE
銀行業務の本来的な面白さに加え、第一次産業の発展に貢献するという使命を持った働き方ができる点に魅力を感じ入庫を決意。入庫後は富山支店で法人営業に従事した後、事務企画部で基幹システムの更改プロジェクトに参画。2022年より営業第五部に在籍し、法人営業として金融・非金融のサービス提供に傾注している。「食」に強い関心があり、年間200杯程度のラーメンを食べる生活をしている傍ら、健康に気を遣いスポーツにも励んでいる。
所属している営業第五部は、事業法人向けの営業を行っている部署で、水産、食品加工、紙・パルプ、製糖、低温物流など、第一次産業との関連性が高い業界を受け持っています。
そのなかで私個人は、冷蔵倉庫・物流企業、青果物流通企業、工事現場や農業用ハウスなどに使われる仮設資材のレンタル企業などを担当しています。昨今は、顧客業界のなかでも特に冷蔵倉庫業界で倉庫の建替や新設の動きが加速しており、ファイナンスを検討するシーンが多いですね。
そもそも冷蔵倉庫に保管されるものの大半は食材や食品なのですが、近年は輸入食材や冷凍食品の増加などにより、倉庫の利用が右肩上がりで伸びています。したがって冷蔵倉庫業界のお客様の業容は、基本的には堅調だと言えるでしょう。ただ一方で、国内の冷蔵倉庫は築40年以上の物件が全容積の40%近くにおよぶなど、老朽化への対応が喫緊の課題となっています。
加えて、物流の2024年問題、つまりトラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用されたことにより、輸送能力が不足している問題も、冷蔵倉庫業界と密接に関わっています。たとえば、これまでは一人のドライバーが九州から東京まで運んでいたものが、労働時間の短縮により運べなくなるといった懸念が生じているわけですが、これに対して中継拠点となるストックポイントを建設し、一つの工程を複数のドライバーで分担できる体制を構築することは、物流問題の解決に資する有効な手立てとなります。
青果物が生産・保管・輸送されて店舗に並ぶという一連のバリューチェーンにおいて、冷蔵倉庫は必要不可欠なもの。食の安定供給を維持するためにも、今、冷蔵倉庫の建替や新設が急がれているのです。
そのとおりです。さらに言えば、建設費が高騰している近年の状況も資金需要の増加につながっています。
冷蔵倉庫の建設には数十億円から数百億円の費用が必要で、お客様にとっても大がかりな投資となるため、意思決定にはかなりの時間を要します。建設場所はどこにするか、規模はどれぐらいにするか、テナントをどうするか、といった検討を重ねているうちに、足元の建築コストが跳ね上がり、コロナ前に想定していた金額の1.5倍になってしまった、というような話も珍しくありません。とはいえ、「先延ばしにはできない」とお考えのお客様が多いので、私たち農林中央金庫もお客様のニーズに対応すべく、金融面での支援に注力してきました。
直近では、JAグループの一員である全国農業協同組合連合会(JA全農)と、ある青果物流通企業の合同プロジェクトに対してファイナンス支援を行いました。
JA全農は、青果物の全国的な調達ネットワークを持っている、つまり「ものを集めることに長けている会社」。一方の青果物流通企業は、全国のスーパー・小売量販店への配送ネットワークを持っている、「ものを上手くさばける会社」です。この両社が協力し、新たな拠点となる高機能な大型冷蔵倉庫(センター)を全国各地に設置することで、物流のサステナブル化および生産者所得の安定・向上を図ろうというのが、本プロジェクトの骨子となります。
建設する大型冷蔵倉庫は、青果物を種類ごとに最適温度(低温)で保管することにより、新鮮な状態を通常よりも長く保てる特長があります。たとえば、夏に収穫した果物を冬場まで鮮度を落とさず保管できる、とも聞いています。青果物は生産量が多いと価格が下がってしまうなど、需給変動の影響を受けがちですが、青果物を高品質なまま長期間保管でき、その先の販路も確保されている状態ならば、ものが少なくなってきた時に小売店へ価格を大きく下げることなく販売することが可能となります。すると生産者は価格変動率を抑えるかたちで安定した収益が得られようになりますし、小売店側も仕入れの安定化を図れるでしょう。本プロジェクトはこのように、食農バリューチェーン上の各プレーヤーがメリットを享受できるように、との思想のもとに推進されています。
実は、JA全農と青果物流通企業と農林中央金庫の三者は、2022年1月に資本提携契約を結んでいる間柄でした。そのため私たちは、金融機関の身ではあるものの、構想の初期段階からプロジェクトメンバーの一員となり、事業運営のための組織づくりをはじめとする、さまざまな計画の策定をサポートしてきました。ファイナンススキームの提案はもちろんのこと、安定した資金調達の実現に向け、参加金融機関の招聘にも取り組みました。
ですが案件の内容からいって、金融機関の招聘は容易には進みませんでした。冷蔵倉庫はその耐用年数の長さから、超長期(実質約30年)の融資対応が求められます。また、青果物の取り扱いには天候や病虫害などの不安定要素がともなうため、金融機関が与信判断をする際に、事業計画の蓋然性(確からしさ)を検証しなければならないなど、検討事項が数多く存在したからです。さらにはそもそも、第一次産業の構造や課題、目指す姿といったものを理解している金融機関はそう多くありません。ゆえにJA全農や青果物流通企業と連携しつつ、参加金融機関を募るための折衝を根気強く続けることとなりました。その一方で、建設費用も想像以上に膨らんでしまっていたので、行政からの補助金交付や増資も含めたかたちでの当初計画の見直しについて後押しをいたしました。
本プロジェクトでは、2024年度に政府系金融機関とメガバンクと農林中央金庫等による融資実行が実現し、大型冷蔵倉庫の着工も決定、低温物流の先駆的な事例として業界内外の注目を集めています。自分としても、色々と苦労はしましたが、JAグループや事業会社と一体になり、第一次産業の発展・進化のために尽力することができた大変に意義深い仕事だったと感じています。
とはいえ、本プロジェクトはまだ始まったばかりですから、今後も引き続き多面的な支援をしていくことが使命だと認識しています。まず金融面においては、いずれ後続の冷蔵倉庫建設計画が動き出すと思いますので、これまでの反省点も活かしつつ、最適なファイナンススキームの構築や参加金融機関を増やしていくための招聘活動で中心的な役割を担っていかなければならない、と考えています。
また非金融面では、保管スペースを埋めるためのサポートを想定しています。倉庫に保管する青果物の調達はJA全農が主体となるものの、農林中央金庫も全国各地の農業法人をお客様としています。このような生産者との橋渡し役を務めていけるのが農林中央金庫ならではの特色ですので、この方面の活動に力を入れていく考えです。冷蔵倉庫の利用率を高めていくことは、生産者所得の安定化に寄与することでもありますしね。
はい。富山支店で多種多様な業種の法人のお客様を担当していました。期間は2年ほどでしたが、あのころ経験した仕事のなかでは、地場大手スーパーとの新規取引を実現できたことが印象深いですね。
私にとって富山は初めて訪れる土地で、赴任当初は知人も少なかったため、大学のOB会に飛び込みで参加してみたのです。すると偶然、二次会で目の前に座っていた方がスーパーの役員で、色々な話をさせていただいていたところ、後日、私宛に「新潟県産青果物の仕入れを強化したいのだが、農林中金と何かコラボできないだろうか」と相談がありました。
こちらとしても、当庫の強みであるJAグループのネットワークが使えるありがたいお申し出でしたので、期待に応えられるよう支店のメンバーとも協議をしつつ提案を繰り返していった結果、JA全農や地元JAなどとのマッチングが実現。その取り組みを評価してもらえたことから、お客様が新店舗を建てるという際もお声かけをいただいて、融資の取引開始に至りました。見方によっては、偶然のつながりから始まった仕事とも言えますが、行動しなければ偶然も起きませんので、「まずは動いてみる」という自分なりの営業スタイルを掴むきっかけになった経験でした。
私は幸いにも、富山支店や営業第五部の仕事のなかで、「食と農」に関わるビジネスに従事することができています。現在の部署では、青果物の生産に用いられる資材リース企業と、保管倉庫や物流企業。前にいた支店では、小売業であるスーパーなど。まさに川上から川下まで、食農バリューチェーン全体に携わる機会が得られていますし、そのような立ち位置にいることで、農林中央金庫の使命である「日本の農林水産業の発展」に貢献できるという実感を持ちながら業務にあたれることに、心からやりがいを感じています。
グローバルとローカルをかけ合わせた「グローカル」な活躍を志向、実践していきたいと考えています。数年前から、政府も農産物の輸出支援に本腰を入れるようになっている環境のなか、自分も遠からず生産者と一緒になって輸出を目指す機会があるはずです。
その時は受け手となる海外の視点を持ち合わせておくことが必要ですので、次は海外に舞台を移し、現地のバリューチェーンがどのような構造をしているのか、どういうプレーヤーがいるのか、といったことを学びたい。そして海外で蓄えた知見を国内に持ち帰り、農林水産業に対する新たな貢献のかたちを探求し、体感したいと思っています。